academistにて若手研究者のキャリアラダー問題に関するクラウドファンディングを明日より開始します:今一度その狙いを説明する

クラウドファンディングを開始しました!

https://academist-cf.com/projects/134?lang=ja

クラウドファンディグの要項を三行で説明する

  • 文系若手研究者の非常勤講師ポストへの就任状況に関する調査を実施します
  • あわせ、本問題が「問題」であることを周知すべく、Tシャツなどを配布します
  • 俺たちは困っている。しかしその困り方の程度すら分かっていない

なぜ、時間を割いて本ファンディングを実施するのか

最初に明言しておきたいのですが、本クラウドファンディング私個人の研究費獲得を目的としたものではありません。頂いたファンディング費については、かなりの額がグッズとしてリターンされますし、残りの額についても、調査実施に必要な費用(人件費・通信費等)に充当される予定です。ですので、原則本クラウドファンディングは、費用を集めることに狙いが有るのではなく、本活動を通じてこの問題を広め、周知することにあります。グッズ配布に主を置いているのも、その理由によるものです。

ではなんでそんなことを、博士論文を執筆するという重要な時期に行うのかというと、教育経験が現在の人文社会学系のポスト獲得において――少なくとも社会学では――非常に重要視されているにもかかわらず、その経験の獲得は、現状極めて不安定な状況にあることを、問題視しているためです。クラウドファンディングでは、この点がアカデミア全体の構造的問題に起因していると捉えた上で、問題の周知広報と、問題の実態を少しでも明らかにすべく調査を行う予定です。以下では、その点を説明します。

まず、クラウドファンディングのページにも記載していることでもありますが、現在の非常勤講師ポストへの着任に置いては、多くの場合以下の要件が求められます。すなわち当該科目ならびにそれに類する科目の教育経験と、博士後期課程満期退学であることです。つまり、非常勤講師ポストは教育経験があるポスドクのための職であると捉えられ、運用されています。

この事の問題は明らかです。第一に、こうした要件はほとんど明示されていません。非常勤講師のポストは、公募にせよそうでないにせよ、多くの場合要件を明示せずに募集されます。このことが応募側に多くのコストを押し付けていることは明らかです。

第二に、なぜ正規職への採用を決める重要なファクターである非常勤講師職において、非常勤講師の経験が必要となるのでしょうか。そもそも非常勤ポストは他の大学の常勤ポストの教員を招聘するためのものである、教育の質を保証するためであるという理由は理解可能ではありますが、一方でそれは若手研究者を正規職に突かせるまでの時間を長引かせ、不安定な境遇をかこわせることとなるのです。

第三に、なぜ博士課程在籍中の学生は、非常勤ポストから排除されているのでしょうか。もちろん、ここにいくつかの理由をつけることは可能です。だがここで問題としたいのは、非常勤講師職が実質的にポスドク職として運用され、博士後期課程の院生が門前払いされるとき、大学院生の将来の貧困は構造的に規定されているということです。なぜならば、正規職への採用が一般に教育歴を必要とし、大学院生時代にその経験を獲得できないとするならば、博士課程修了後即座に正規職に就くことは、どんなに優秀な院生であっても困難だからです。

こうした例示に対し、研究者の皆さんは様々な「例外」を思いつくでしょう。学振PDの存在、先輩から受け渡される非常勤講師枠の存在、そもそも即座の就職はどんなに優秀であっても実質不可能、etc…しかしここで私たちが考えるべきなのは、そうした例外ではなく、「なぜ私たちはそうした例外条件に人生を振り回されているのか?」を考えることではないでしょうか。言い換えるのならば、本ファンディングはこうしたある種理不尽な非常勤講師ポストをめぐる構造を精査し、問題を洗い出すための手がかりを作り出すための試みであると言えます。

ファンディングの狙い:まずは問題を問題と捉えられるようにすべきである

さて、以上の説明を受けたとしても、皆様の中には以下のような疑義を持つ人がいるかと思います。まず第一に、本ファンディングのうち少なくない額をTシャツやステッカーといったキャンペーングッズに割くことです。第二に、本調査の社会調査としての妥当性です。

まず第一の点についてお答えします。私は、まずこの問題が現状問題として受け止められていないことに大きな危機感を抱くべきだと考えています。先述したように、現状の非常勤講師ポストを巡る制度は、歴史的経緯の元極めて若手研究者にとって不確実なものとして運用されています。問題は、利益を得られるか得られないかではなく、それを得られるかどうかが、完全に「僥倖」のもとにあることにあります。このことは結果として、若手研究者を2つに分断することになるわけです。方や非常勤講師ポストを得る側、かたや得られない側。そしてそれは完全に運に支配されているとしたら?私たちは、自分への利益供与がされているかされていないかはともかくとして、こうした不確実性に満ちたキャリアラダーを少しでも確実なものとすべく、問題認識を一致すべきであると考えます。ですから、本クラウドファンディングは有る種の広報周知に力を入れているわけです。

第二に、本調査の妥当性です。本クラウドファンディングで予定している調査については、現状一般的な社会調査に求められる要件を満たすことについては困難であると考えています。まず研究者側については統一名簿が手に入らない以上(各所に協力は仰ぐ予定ではありますが、それでも総体把握は困難です)、一般的なサンプリング調査は不可能ですし、セカンドゴール以降で予定している大学側への調査については、担当部局が複数にまたがることや、内規にかかわることからも回答率がかなり低めに出ることが予想されます*1。そのため、もし調査を実施したとしても、それが本当に全体の傾向を表しているものといえるかどうかについては、統計学的には担保が難しいこととなります。

しかしながら、それでも本調査を行うのは、物事はたとえ不確実であってもまずは「数量化」されるべきだと考えているからです。博士論文ではこうした近代社会が有する「数量化への欲望」に対して批判的立場を取る予定ですが、それはそれとして私たちの社会は今なおこの欲望に取り憑かれています。であるがゆえに、この社会に少しでもこの問題を周知する際には、社会調査に求められる要件を満たしていないとしても、まずは数量的なデータを示すことが重要であると考えています。

もちろん、これはきちんとした設計に基づいた社会調査が必要ないということを意味しているわけではありません。しかしながら、本調査をこうした要件を満たす形で実施することは、金銭的にも人手的にも困難です。そのためあくまでも今回の挑戦は、本問題を周知するという初期フェーズを開拓し、そのために必要な調査を実施するという試みであり、その後のより詳細・正確な実態調査の実施については、別のアクターに果たしていただきたいと考えています。

最後に

こうした主張に賛意を抱いていただける方は、是非ともクラウドファンディングにご参加願います。少額でも賛意を示していただけることは、非常に励みとなります。

また、本調査にご協力いただける方を募集しております。参加形態は匿名非匿名どちらでも結構ですし、コミットの度合いもできるだけ柔軟な形としたいと思っております*2。金銭的に本クラウドファンディングへお金を投下することが難しいが、協力したいという方、純粋に本調査に関心がある方がもしおられましたら、是非ともご協力いただけますと幸いです。

 

クラウドファンディングのページ公開は明日となります。しばしお待ち下さい。

なお、ファンディングへの参加にはacademistのWEBサイトへ会員登録が必要となりますので、できれば事前にご登録ください!初動が大事なので出来れば早めにファンディングいただけると助かります

https://academist-cf.com/

 

 

 

 

*1:そのため大学側調査については、複数の大学へのインタビュー調査に変えることも検討しております。

*2:調査票設計のみへのコミット、データ集計のみへのコミット、データの二次分析のみなど、いずれでも良いと考えています