クラウドファンディングをやってみた感想:戦略・成果・今後の展望

私はクラウドファンディングをやってました

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8月末から怒涛の忙しさで全く浮上出来ていなかったのですが、ようやくブログに手を出せる余裕ができたので、クラウドファンディングの総括について書いてみたいと思います。

 

なぜクラウドファンディングをやったのか?

 クラウドファンディングを実施した理由については、過去に述べました。

 

babibubebobobo.hatenadiary.jp

とはいえ、もう一回読み直すのもダルいでしょうから、その理由の概略を述べると、以下のとおりです。 

  1. 文系院生のキャリアラダーの特異性を示すために調査する
  2. 具体的には、非常勤ポストの不均衡分配が、個々人のキャリア育成に歪みを生んでいることを示したい
  3. この問題は今までほとんど議論されてきていないので、政策にも盛り込まれていない。そのため調査結果は最終的に調査提言に活かすこととしたい
  4. 上記観点から広報も重要なので、Tシャツ配布も含めたグッズ配布にも力を入れる

以上の観点より、とりあえずミニマムファンディング額である20万を目標として、クラウドファンディングを始めました。

クラウドファンディングの戦略

さて、クラウドファンディングというのは一種のBtoCビジネスです。つまり、潜在的消費者に対し、リターンという自社の商品がいかに優れているかを売り込むことによって、それに応じたファンドを頂くというのが、基本的流れだからです。今回のケースで言うのならば、「文系院生のキャリアラダーの調査」というパッケージを人々に訴求しなくてはいけません。まあ平たく言えばマーケティングが求められるということです。

とはいえ、一般的なサービスや消費財と異なる点もあり、そこがクラウドファンディングという「商材」の面白いところだったりします。違う点は以下の2つ。

クラファンに挑戦すると決めたときに、私はとりあえずacademist全体に上がっているクラウドファンディングの性質と、その金額についてざっと見てみました。その結果クラウドファンディングでのお金の集め方には、2パターンがあるということがわかりました。つまり、かたやバズ*1によって少額の金額を大量の方から集めるという手法、もう一つは、多額の金額を少数の方から集めるという手法です。

そしてここで気づいたのは、クラウドファンディングの投資可否はどうも往々にして商材であるリターンではなく、個々人の魅力に起因しているのではないか、ということでした。というのも、研究クラファンは、基本的にリターンがショボいのにも関わらず(当然ですが)、高額の金を集めているクラファンが多く見られたからです。それらのクラファンでは、やはり主催者が継続的にネット上で魅力的な活動をされている傾向が強かったです。

つまり、クラウドファンディングの資金が集まるかどうかは、リターンの魅力もさることながら、それと統合した形で適合的かつ魅力的な個人であることを、アピールすることが重要となります。単にページを作って公開するだけでは駄目で、いかに自分が出資するに値する人物かを示さないと駄目だということですね。

実は本クラウドファンディングでは当初調査を予定しておらず、Tシャツの配布のみを行う予定でした。では、なぜTシャツの配布をBOOTHのような販売代行サービスで行うのではなく、クラウドファンディングという形で行いたかったのかというと、クラウドファンディングで匿名の他者に配布できるようになれば、それによって、この行為を悪ふざけではなく、正当性を持った異議申し立てとして運用できるのではないかと考えたためです。クラウドファンディングのページを立ち上げるということは、それ自体が一種の運動性を帯びているわけですね。

正味な話、クラウドファンディングは運営会社に手数料を取られますから、リターンも勘案すると集金手段として考えた場合はそれほど割はよくありません。むしろ、クラウドファンディングサイトという特定のプラットフォームを介して、自らの活動が正当性を持ったものであるということをアピールし、クラファン成功によってさらに、それを後押しするという使い方が有意義なのではないかと思います。例えば、打越正之さんの本の執筆代を集めるという名目でのクラウドファンディングは、おそらく本の営業活動として考えると極めて有意義であったことでしょう。単にカネを集めるだけではなく、二次的三次的な波及効果にこそ、クラファンの旨味があるように思います。

camp-fire.jp

 

以上の特性を踏まえ、私は以下の2つの方向性を打ち出して活動することにしました。

クラウドファンディングのリターンを個人的魅力を元に強く打ち出す

私は残念がら20代後半のモサい男なので、いわゆる「セクシー」さでクラファンの価値を訴求することが出来ません*2。同様に、私と話したいという人がどれほどいるのやらという所感を当初より持っていました。

一方、私はおそらく同世代の一般人よりは料理が得意な自負がありますし、いろいろな料理や飲料とのペアリングを勉強してきました。また、諸事情によりホップの特性やビアスタイルの追求については相当に詳しいと思われます。そのため、1万円のリターンを「文系院生バー」の参加権とし、Twitterにも関連するツイートを多く掲載して、参加を募ったわけです。

 ただ、これは正直言って失敗しましたね。というのも、研究クラスタと料理クラスタは離れすぎていて、なかなかRTに結びつかなかったからです。1万円リターンを希望する人は結果的にかなり多かったですが、多くが私とそれなりに深い付き合いをしている方で、実際に私の料理なりなんなりを食べている人でした。その意味では広がりに欠けた印象です*3

また、Tシャツリターンも3000円とし、おそらく一般的なクラファンに比してかなり安い価格でのリターンとしたのですが*4、これも思ったよりは伸びずというところで、思ったよりもグッズの魅力では人は集まらず、基本的に研究クラファンはインプレッション数☓テーマの間口の広さ☓クラファン主催者のネット上での(良い意味での)知名度の掛け算で支援額が決まるなと痛感した次第です。

 

クラウドファンディングを周知のツールとして活かす

 一方、料理以外にもちょっと「バズ」を意識していくつか研究に関連するツイートをするよう、クラファン期間中は意識していたのですが、伸びるツイートがあっても、なかなかクラウドファンディングのクリックには結びつかず、周知にはつながらないという感じでした。

このツイートは、「ロスジェネ」☓「日本労働」ということで、研究クラスタイッタラーの心に触れる要素が多かったせいか、そこそこRTされ、インプレッション数も多かったですが、これが伸びている間にクラファンの金額はほとんど伸びませんでした。やはり、少しウザイでしょうが、純粋なクラファン参加のお願いを、SNS上で繰り返すしか道はないようです。

なお、今回当初の目標金額を20万とアカデミスト側の要望する最小金額としたのは、Web調査を主とする以上、それほど多くの金額を必要としないというのもあるのですが、どちらかというと戦略的に、「目標額を(知り合いブーストで)爆速で達成し、その後非知り合いの方からの少額ファンディングを募る」ということを狙ったためです。とっとと当初の目標額を満たし、「このファンディングは有望だ」ということがわかったほうが、お金が集まりやすいのではないかと考えたのですね。まあ結果から言うとどうも逆の効果があったのではないかと思わんでもないのですが、いずれにせよ失敗していたら目も当てられませんので、結果としてはこれで良かったかと思います。

いずれにせよ、今回色気を出してツイッターで色々実験をしてみましたがあまり結果は芳しいものとは言えず、最終的にクラウドファンディングで資金を集めるためには小手先ではなく、「リアルでの付き合いがある知り合いの数」が物を言うな、というのが所感でした。もちろん、これは私が弱小ツイッタラーだからであり、アルファがやればそれ相応に伸びる気もしますが、そこまでやるのは難しいですよねえ。

とはいえ、今回の活動を通じて多くの方とお知り合いになることが出来ましたし、今までお付き合いのない方からも多数の支援を頂けたということも、ここで明確にしておきたいと思います。

クラウドファンディングの成果

 いずれにせよ私の小細工はともかくとして、今回のクラウドファンディングでは述べ人数43名の方より、合計303631円の支援をいただくことが出来ました。まず、支援いただいた皆様に強く感謝の念を申し上げます。

それを踏まえた上で、今回のクラウドファンディングを通じた反省点を述べます。

  • より幅のある値付けを心がけるべきであった

今回はファンディング額の上限を1万円としましたが、もう少し上のレンジを引き上げる、すなわち3万円-5万円クラスのリターンを作っても良かったなと思います。まあこれは一種の「知り合い搾取」にもつながるので、なんともいえんのですが…

  • 日頃から交流網を広げるべきであった

残念ながらクラウドファンディングの金額の多寡は、概ねSNSのインプレッション数に比例するように思います*5。今回はクラウドファンデイング開始と同時期に実名Twitterを始めたのですが、もう少し前から種を撒いておけば良かったなと思いました。逆に、クラウドファンデイングをやるのならば、TwitterなりなんなりのSNSを用いて、個人の人格をよりアピールすることは必須であるように思われます。

  • もう少し幅の広いターゲットに訴求しうるテーマ名にすべきであった

今回は「人文社会系」と銘打ってクラファンをやったわけですが、これは取っ払って「若手研究者のキャリアラダー」と銘打ったほうが良かったかもなあと、終わったあと感じました。というのも、結局人文社会系の特殊性を分析するにしても、参照項としての他分野のデータを集めることは必須だからです。そのほうが、より間口が広がって、訴求する対象は広がっただろうなと。ただこうすると、資金は集まったかもしれませんが分析の工数は上がるので、キャパシティを踏まえるとなんとも難しい選択ですが…

クラウドファンディングを踏まえた今後の展望

実は今回のクラウドファンディングを募っていた段階で、ある団体とのコネクションが出来、本調査を中央官庁の委託調査の一環として実施できることとなりました。そのため、現状不確定要素は大きいですが、本調査の知見については、単に公表されるだけではなく、将来的な科学技術政策に生かされる可能性が出てきました。文系院生のキャリアラダーの特殊性を官僚サイドが認識できるようになれば、より良い施策が打たれる可能性は飛躍的に上昇するでしょう。

私は、かつてコンサルタントとして類似業務で生計を立てていたこともあるのですが、心の底から実施すべきだという調査に巡り合うことや、調査結果を正しいと自分が考える方向で報告することは今まで殆どありませんでした*6。その意味で、この帰結は私にとって非常に感慨深いですし、今回のクラウドファンディングは、単なる文系院生のガス抜きにとどまらず、社会問題の解決に繋がりうる方向にこの活動を動かしたという意味において、非常に有意義であったと思います。もっとも、調査はこれからなのですが。

というわけで、クラウドファンディングは金を集めて終わりではなく、金を集めてからがスタートだというのが、私にとって本活動を実施して得ることが出来た、最も大きい知見でした。皆様、今後とも応援ご支援よろしくお願いいたします。

*1:といっても、概ね日頃の努力の賜物のように見受けられましたが

*2:それが良いことだとも思いませんが

*3:やっぱモサイ男の作った飯とか誰も興味ないんですかねえ

*4:これは当初本クラファンがTシャツ配布を目的としていたことによっています

*5:大体関連ツイート1万インプレッションで15万が集まるといった感じでした。

*6:何故なかったのかという話は、近日掲載予定の論文に詳しく記載しております。